タナちゃんねるで有名な田中淳也さんが新たに立ち上げたブランドTOKYO CRAFTS。2021年2月19日にクラウドファンディングサービスMakuakeでKUBERUという焚き火台のプロジェクトを開始しました。しかし、以前から広島の池田鉄工有限会社が展開するガレージブランドIPPO ProductsでKUBEERUというよく似た名称の焚き火台が販売されておりました。商標登録の観点から本件を深堀りします。
アイキャッチ画像出典: IPPO Products
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Follow @Camp__Review事案の経緯
今回一部のソーシャルメディア上で、一定数の方が大変残念な思いをする事態に発展しました。改めて経緯を時系列順に振り返ります。
1. 2021年2月14日: TOKYO CRAFTSの焚き火台の名称がKUBERUになることがタナちゃんねるTwitter上で告知される
以前からタナちゃんねるの動画上で、タナさん自身がプロジェクトを立ち上げ、オリジナルキャンプグッズを企画、製造することが告知されていましたが、2021年2月14日に、第一弾商品である焚き火台の名称が「KUBERU」(薪を”くべる”から由来した名称と思われます)となることと、Makuakeでの応援募購入集開始が2月19日から始まることが告知されました。
2. 2021年2月14日〜: Twitter上でIPPO Productsが類似名称を先に使っている点が指摘される
上記のツイートに対し、徐々にTwitterユーザーから名称について違和感を示すコメントが付き始めます。2020年4月から広島のガレージブランドIPPO Productsが「KUBEERU」という名称の焚き火台を販売していたためです。
また、焚き火台ではありませんが、一般社団法人大和森林管理協会がKUBERUという薪ストーブを製造、販売しています。
3. 2021年2月17日: タナさんから本件についての見解が掲載される
Twitter上でのコメントを受け、タナさんから本件についての見解が文面で発表されました。
内容を要約すると、以下の通りです。
- 商品名仮決定後、弁理士がリーガルチェックを行った
- 結果はA判定(KUBERUという名称に法的な問題なし)であり、商標出願は完了、現在結果待ち
- 申請時には類似名称の商品やメーカーの存在は認知していなかった
- 今後のプロセスでは幅広く調査を行う
- 現段階では商品名の変更予定はない
IPPO ProductsのKUBEERUや大和森林管理協会のKUBERUの存在は申請時には認知しておらず、商標申請が通らないという事態が起きない限り商品名は変更しない旨が表明されました。
※出願情報を見ると、出願日は2021年1月27日となっていました。
4. 2021年2月17日〜: ソーシャルメディア上では本件について賛否の割れるコメントがつく
一連のタナさんのコミュニケーションに対し、ソーシャルメディア上では賛否の割れるコメントがつきました。一部を抜粋、読みやすさを優先して編集したものを以下にまとめます。(原文はタナさんのTwitterのコメント欄でご確認ください)
今回の類似名称問題はなぜ起きてしまったのか?
このような残念な事態に発展してしまった今回の事案ですが、なぜ起きてしまったのでしょうか。
IPPO Productsは商品とそのユーザーを守るために商標登録しておくべきだった
過去のことを言っても仕方ないですし、IPPO Productsを批判する気は微塵もありませんが、KUBEERUを販売開始したタイミングで商標登録を行っていれば今回の事態は確実に防げました。商標登録自体はそれほど費用のかかるものではありませんし、手間でもこのようなリスクを回避するためにも登録しておくべきだったでしょう。
より懸念すべきなのは今後の話で、TOKYO CRAFTSの商標登録が完了した場合、(TOKYO CRAFTS側にその意志があるかはわかりませんが、)法的にはIPPO ProductsへKUBEERUの同名での販売差し止めを要望することができてしまいます。このようなことが起きてしまった場合、IPPO Productsの製品を愛用しているユーザーにも影響が及んでしまいます。
タナさんは本当に名称仮決定時に類似名称商品を認知していなかったのか?
文面で本人が「認知していなかった」と明記しているので、外野がとやかく言う話ではないのですが、ものづくりをされている方にとって「商品名」というのは商品そのものと同じく、魂を込めて考えに考え抜いて最高のものにしようとするはずです。KUBERUはTOKYO CRAFTSにとって第一弾のプロダクトであり、商品名決定時にも相当な強い思いを込めてらっしゃると思います。ユーザーがその商品名を聞いて検索をするシーンを想定してオンライン上で検索するくらいのことはしていて当然だと思うのですが、そういった行動が取られなかったというのは、名称類似問題とは別の、ものづくりのプロセスという観点で残念でした。
ユーザーとのコミュニケーションには工夫の余地があったのではないか?
TOKYO CRAFTS側の一連のプロセスにはビジネス的、法的な落ち度は一切ありません。ただし、今回の事案をきっかけに、タナさん、およびTOKYO CRAFTSについてネガティブな印象を受け、商品を買いたくないと思ってしまった人が一定数出てしまったことは事実でしょう。
多くの一般消費者にとって、適法性やビジネス的な正しさよりも、「KUBERUという名称で後から商品を出すことが、先行企業がコツコツ重ねてきたものづくりの努力を踏みにじった」というネガティブな行為に結果的には映ってしまっています。伝える内容が同じであったとしても、伝え方をもう少し工夫する余地はあったのではないかと考えます。
この問題を2社間の揉め事と矮小化させないために
今回の事案は「ものづくりにおける権利保護」について改めて考えさせられる事案であり、一過性の揉め事と矮小化してはいけないと感じました。このような残念なことが再発しないよう、今後どうするべきか、考えてみたいと思います。
ビジネスの大小に関わらず、商標登録を
キャンプ業界では大規模ではなく少量生産ではあるものの、良い商品を製造するガレージブランドなどが全国各地に点在しており、大多数ではないものの一定数のユーザーから絶大な支持を得ているブランドもあります。
そういったガレージブランド等のみなさまには、ビジネスの大小に関わらず、商標登録の重要性を再認識していただきたいです。商標を後発企業に取得されてしまうリスクは、名称の盗用だけでなく、その後の自社製品を同名で販売継続ができなくなってしまう点にあります。
商品名決定時には、綿密な調査を
類似した商品名で既にサービスや商品が販売されてしまっている場合、先行企業が商標登録していなかったとしても、
- 先行企業のファンにネガティブな印象を与えてしまう
- 商品プロモーション時に先行企業と競合してしまう
というような問題が発生します。事前に調べて別名称にすればこのような事態を回避できます。
まとめ
多くのキャンパーにとってTOKYO CRAFTSのものづくりへの期待度は高かったでしょう。商品そのものの評価ではなく、こういった一連のユーザーとのコミュニケーションで商品の評価が下がってしまうのは大変残念です。業界全体で良いものをつくり、つくり手とつかい手が双方ハッピーになることが本来は理想形のはずなので、このような残念な事案が今後再発しないことを願います。
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